もう一度、重なる手

 私一人だけを乗せたエレベーターは、珍しくノンストップで十五階まで上がっていった。開いていく扉を見つめてため息を吐くと、エレベーターを降りて休憩室に入る。

 空いている席を二人分確保して待っていると、カバンの中でスマホが鳴り始めた。

 ドキッとして取り出すと、スマホの画面には翔吾くんの名前が表示されている。

 言い訳するなら、早いほうがいい。電話越しのほうが、表情を見られないからいくらでも誤魔化しがきく。

 だけど、どういうテンションで電話に出るべきかわからなくて。躊躇っているうちに着信が切れた。

 またかかってくるだろうか。それとも、今からでも私がかけ直すべき……?

 ぐずぐずと決断できずにいるうちに、ラインが届く。

〈今夜、行くから。〉

 翔吾くんから送られてきた短いひとことに、スマホを持つ手が小刻みに震えた。

 今この瞬間、翔吾くんからの電話やラインを無視しても、それは一時だけのこと。私が翔吾くんとの付き合いを続ける限り、彼からは逃れられない。

 翔吾くんから「逃げたい」とか、彼の機嫌を損ねたら「怖い」と思っている時点で、既に私たちの関係は破綻しているのかもしれない。
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