もう一度、重なる手

 私が翔吾くんに対して感じている気持ちは、たぶんもう、恋じゃない。

 前から薄々と感じていたのに、ずっと気付かないフリをして誤魔化してきた自分の気持ち。それを伝えたら、翔吾くんはどんな顔をするだろう。

 想像するだけでも怖いけれど、このまま翔吾くんとの付き合いを続けていても、幸せな未来が見えないことだけはわかる。

 一度歪んだ関係は修復されないまま。この状況で結婚すれば、私は翔吾くんの監視の目に縛られて暮らすことになるのだろう。

 それならば、今夜――。

「フミ」

 不意に名前を呼ばれて、思考が途切れる。スマホから視線をあげると、隣に座ったアツくんが私の顔を心配そうに覗き見てきた。

「大丈夫? また思い詰めた顔してるけど」

「あ、うん……。平気」

 ふにゃっと笑う私に、アツくんが何か言いたげに眉根を寄せる。だけど結局何も言わないまま、手に持っていたコンビニの買い物袋と紺色の巾着袋をテーブルの上に置いた。

「買ってきてくれてありがとう。いくらだった?」

 カバンから財布を出そうとすると、「フミはこっち」と紺色の巾着袋が私の前にスライドされてくる。
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