もう一度、重なる手

「さっき焼き肉食べに行くかって聞いてきたけど……、食べに行かなくても焼き肉入ってるね」

 お弁当のおかずを見て思わず笑うと、アツくんが「そうだね、忘れてた」と戯けて笑う。

「またアツくんの料理が食べられるとは思わなかったな。一緒に住んでた頃は、たまに朝ごはんとかお昼ごはんを作ってくれたよね」

「作ったって言っても、ホットケーキとかチャーハンとかその程度じゃなかったっけ?」

「それでも、私にはアツくんが作ってくれるごはんが嬉しかったよ。ねえ、これ、本当に私が食べていいの?」

「もちろん」

「ありがとう。いただきます」

 アツくんのお弁当はボリュームが多くて、最近食欲が落ちている私には半分食べるだけで精一杯だった。

 だけど、ひさしぶりのアツくんの手料理は美味しくて、食べているほんのひとときだけは、翔吾くんのことを忘れられた。

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