もう一度、重なる手
◇◇◇
その夜、私が家に着いたのは八時頃だった。
職場を出てから家に着くまでに何度もスマホを確認したが、翔吾くんからの連絡はない。
いつ来るのだろうと思うと、帰宅中も家に着いてからも落ち着かず。アツくんに知られたら渋い顔をされるだろうなとは思いつつも、夕飯を食べる気になれなかった。
食事の代わりに口にしたのは、お湯を注ぐだけのドリップコーヒー。
心を落ち着かせるために、大きめのマグカップに注いだ薄めのコーヒーをゆっくりと飲んでいると、テーブルに置いたスマホが震え始めた。
きっと翔吾くんからだ。
ドキドキしながらスマホを手に取った私は、画面に表示された名前に顔を顰めた。電話をかけてきたのが、翔吾くんではなく母だったから。
母がバイクとの接触事故で腕をケガをしたのは一ヶ月前。
事故後しばらくは週末に家事を手伝いに行っていたが、ギブスが外れて以来、母の家には顔を出していない。電話がかかってきたのもひさしぶりだ。
もうケガはよくなっていて、手の不自由もないはずなのに。何の用だろう。
気になったけれど、私は母からの電話をとらなかった。
母が私に電話をかけてくることは滅多にない。そんな母が電話をかけてくるときは、やっかいな頼み事をされることがほとんどで、たいていの場合長電話になる。
翔吾くんがいつ来るかわからない今の状況では、母の長電話に付き合えない。
しばらく無視していると、着信が切れた。