もう一度、重なる手
「史花、お母さん、ひとりになっちゃった……。事故に遭ってからは仕事も休んでるし、これからどうすればいいと思う……?」
お酒を飲んでいるのか、母の呂律が若干怪しい。
「史花、うちに帰ってきてよ。お母さん、ひとりじゃやっていけない……。一人暮らしなんてやめて、またお母さんと一緒に暮らそう」
母が、電話口で泣きながら訴えてくる。
恋人との関係がうまくいっているときは、連絡すら寄越さなかったくせに。別れた途端に思い出したように私に擦り寄ってくる母にため息がこぼれた。
母は昔からいつもそうだ。
亡くなった私の実の父以外とは、裏切ったり、裏切られたりの連続でひとりの人と長続きしない。
山本さんとは珍しく三年も続いたから、結婚はしないまでもこのまま事実婚で一緒に暮らしていくのかと思っていたけど。それもダメだったらしい。
泣きじゃくる母の声を聞けば、気の毒だとは思うし同情もするけれど……。
一時の情に流されて母のところに戻るのはよくないと、私は経験上知っている。
根っからの恋愛体質の母は、一年もすればどこからか新しい恋人を見つ寝てくるだろうし、そうなれば私に興味を示さなくなる。