もう一度、重なる手
「帰らないし、一緒には暮らせないよ」
きっぱりと言うと、母が「わぁーっ」と声をあげて泣いた。
「史花はいつからそんな冷たい子になったの? 独り立ちできるようになるまで、誰が世話してあげたと思ってるの?」
ヒステリックに叫ぶ母の言葉は、やたらと恩着せがましい。
たしかに、幼い頃は母のそばで、裕福ではないにしてもそれなりの生活ができた。
けれど、中学生に上がる頃からは私が食事を作ったり、洗濯や掃除をしていたし、高校生になってからは私がバイトしたお金を母の収入だけでは足りない分の生活費に充てていた。
大学だって奨学金を借りて進学して、仕事をしながら少しずつ自分で返済している。
母が事故に遭ったときだって、黙って愚痴を聞いて、料理や掃除をかなり手伝った。
それなのに、「誰が世話をしたのか」などと言われたくない。
さすがにイラッとしと言葉を返そうとすると、玄関でガチャッと鍵の回る音がした。
翔吾くんだ……。
途端に母に対する苛立ちがスッと引き、背筋が冷える。