もう一度、重なる手
「翔吾くんは、私に何をどう謝ってほしいの?」
不機嫌な顔で私に謝罪を求めてくる翔吾くんに、ついそう返すと、私を睨む彼の眼光が鋭くなる。
「あるだろ、謝ること。前に約束したよな、あの人とはもう会わないって」
「約束……、したつもりはない」
「は?」
「約束したつもりはないけど、翔吾くんを怒らせたくないから、アツくんには会わないように気を付けてた」
「だったら、どうして今日は会ってたんだよ」
「一週間前に、アツくんの勤めてる内科クリニックで貧血の検査を受けていて、昼休みに結果を聞きにいってたの。エレベーターで鉢合わせたのは本当に偶然。だけど、アツくんと一緒にいるところを翔吾くんに見られたらと思うと怖くて……。あの場で動けなくなった」
「それは、史花にやましい気持ちがあるからだろ。貧血の検査って言えば、正当な理由であの人に会えると思ったんだ?」
翔吾くんが口端を引き上げて、皮肉っぽくフッと笑う。
私に疑いの目を向け続ける翔吾くんを悲しい気持ちで見つめ返しながら、私たちはもうダメなんだと悟った。
私の気持ちを疑い切っている翔吾くんに、どんな言葉を使って何時間説明したとしても、きっと事実は伝わらない。