もう一度、重なる手
7.好意

 翔吾くんに頬を殴られたあと、私は体調不良という名目で仕事を二日休んだ。

 よほど強い力で殴られたのか、左頬にファンデーションでカバーしてもわかるくらいの青痣ができていたのだ。

 二日休んでいるあいだに、翔吾くんから「会って話したい」というラインが何度か届いたけれど、私はそれに応えなかった。

 合鍵を持っている翔吾くんは、来ようと思えばいつでも私の家に来れるはずだ。けれど、私を殴った気まずさからか、彼がアポなしで家に来ることはなかった。

 仕事を休んでいるあいだ、翔吾くんからは謝罪のメッセージがいくつも届いた。

〈ほんとうにごめん。〉
〈もうしないから、許してほしい。〉
〈史花とちゃんと話がしたい。〉

 ラインの文面からは翔吾くんの必死さが伝わってきたけれど、どれだけ謝られても私の心は動かなかった。

 翔吾くんに殴られた日の夜、私は謝りながら抱きしめてくる彼のことを引き離して、無理やり家に帰らせた。

 動揺している翔吾くんとまともに会話ができるとは思えなかったし、私もショックを受けていて、ひとりになりたかったのだ。
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