もう一度、重なる手

 私が謝罪の言葉を全て無視しているから、翔吾くんもついに痺れを切らしたのかもしれない。

 会いに来てほしくなんかない。会いになんて来られたら困る。私の話も聞かずに暴力をふるうような人には会いたくない。

 だけど、翔吾くんは私の家の合鍵を持っている。

 あれを手元に取り戻すか、鍵そのものを変えない限り、彼は私の家に入ってくることができてしまう。

 もし私がこのまま翔吾くんからのラインを無視し続けても、彼はきっと最後には、合鍵を使って私の家にやってくるだろう。

 もしかしたら、私が仕事から帰宅すると、既に合鍵で入って部屋で待っているかもしれない。そうなったら、逃げられない——。

 想像しただけで、もう痛くないはずの左頬が熱くなった。そっと左手で頬を押さえると、肌に指先の震えが伝わってくる。

 一番安心できるはずの自宅。そこに帰るのが怖いなんて……。

 一瞬、母の家に行こうかと迷ったけれど、その考えはすぐに立ち消えた。

 この前、電話で一緒には暮らさないと宣言したばかりなのに、母のことは頼れない。
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