もう一度、重なる手
「今日は院内の別室で簡単に済ませたから休憩スペースには行けなかったんだけど、タイミングよく会えてよかった」
アツくんに横から顔を覗き込まれて、背中や手のひらに変な汗をかく。
翔吾くんに殴られたことや、そのせいで二日も欠勤していたことがバレたらどうしよう。
ただでさえ目の前で貧血を起こしたり、翔吾くんと鉢合わせて動揺したり、恥ずかしいところばかりを見せているのに。これ以上、余計な心配をかけたくない。
左頬を隠すように手のひらで触っていると、アツくんが「フミ?」と少し怪訝そうに私を呼んだ。
「どこまで行くの? 駅、そこだよ」
アツくんに指摘されて、ハッとする。左頬を気にしながらぼんやりとしていた私は、地下鉄の駅に繋がる階段の入り口を通り過ぎそうになっていた。
「ごめん、ちょっとぼーっとしてた」
「大丈夫? ごはんはちゃんと食べてる?」
「……、食べてるよ」
一瞬、妙な間を空けた私を、アツくんが疑わし気に見てくる。
「ほんとうに、食べてるから」
アツくんから顔をそらして、早足で階段を駆け下りる。
「あ、フミ……」
追いかけてくる足音を聞いてさらに駆ける速度をあげようとすると、最後の一段で右足のヒールの踵が地面に斜めに着地して、足首を捻った。
「痛っ……」
「フミ!」
小さな呻き声をあげてよろけた私を、追いかけてきたアツくんが支えてくれる。