もう一度、重なる手

「何やってるの。っていうか、なんで突然走り出したの?」

 呆れ顔で私の腕を軽くつかんだアツくんが、長袖のブラウスの裾から覗いた手首を見て表情を変える。

 私の手首には、ブレスレットのようなわっか状の青痣が残っていて。それが誰かに強くつかまれた痕だということは、一目瞭然だった。

 頬の痣はファンデーションでカバーしたし、手首の痣も長袖を着ていれば見えないと思ったのに。迂闊だった。

 焦ってアツくんの手を振り払って逃げようとすると、彼が私の両肩を軽く押さえて引き留める。

「待って、フミ。この痣、何?」

「ちょっと、仕事中にぶつけて……」

「フミ、事務の仕事してるんだよね? どういうふうにぶつけたら、こんなふうに誰かに強くつかまれたみたいな痣ができるの? 反対の手は?」

 慌てて隠そうとしたけれど、アツくんに手をつかまれて、もう片方の手首の痣も見つかる。

「もしかしてこれ、小田くんにやられたの?」

 顔を覗き込むようにしながらゆっくりとした声で訊ねられて、私はアツくんから顔をそらした。

「返事がないってことは、肯定ととらえていいんだよね?」

 もう一度確認するように訊ねられて、私は顔を背けたまま唇を噛んだ。
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