もう一度、重なる手

 翔吾くんに殴られたことは知られたくなかったのに。アツくんに情けないところを見られてしまった。

 もう子どもじゃないのに。十四年経っても、私はアツくんに弱いところや情けないところを見られてばっかりで。ほんとうに恥ずかしい。

「翔吾くんと、別れ話で少し揉めたの。でも平気だから。ちゃんと自分で解決できる……」

 深刻な顔で見つめてくるアツくんにそう言ったとき、カバンの中で私のスマホが鳴り始めた。

「ちょっと電話……」

 アツくんとの会話を中断させるのにちょうどいいタイミングでかかってきた電話にほっとしながらスマホを手に取る。

 だけど、電話の相手は翔吾くんで。画面に表示された彼の名前に、私の手はスマホを落としそうなくらいにがくがくと震えた。

 翔吾くんは、もううちに来ているのだろうか。

 それとも、どこかからアツくんと私がふたりでいるところを見ていて牽制の電話をかけてきているのだろうか。

 翔吾くんとは、離れたい。

 別れたいと思っているのに、殴られたときのことを思い出すと手が震えてしまって、電話に出ることすら怖い。

 アツくんには「自分で解決できる」なんて言ったけど、私は本当にひとりで翔吾くんに対峙できるだろうか。
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