もう一度、重なる手
おいで、って。どこに……?
戸惑っていると、アツくんが大きな手のひらが私の右手を包み込む。
「もう躊躇わないよ。あのときみたいに後悔したくないから」
「あのとき」と言われて思い出したのは、大きな選択を迫られた十四年前の夏の記憶。
ジージーとうるさい蝉の声と、悲しそうなアツくんのまなざし。幼い決意と胸の痛み。
二宮さんと別れて、母について行くことを決めてから、私の心にはずっと後悔が付き纏っていて。
どこにいても、誰といてもほんとうの意味では満たされず、ずっと迷子の子どもみたいな気分だった。
それが、アツくんに手を包まれた瞬間、ずっと求めていた場所にようやく辿り着けたような気持ちになる。
アツくんに優しく微笑みかけられて、私はあのとき掴めなかった彼の手を十四年越しに、ぎゅっと握り返した。