もう一度、重なる手

◇◇◇

「お風呂、ありがとう」

「あー、うん。服、フミにはやっぱりだいぶ大きかったよね」

 バスタオルで髪を拭きながらリビングに行くと、スウェット地のハーフパンツのウエストの紐をいっぱいまで締めて、肩周りの緩い大きめのTシャツを着た私を見たアツくんが、困ったように眉尻を下げた。

「サイズは合ってないと思うけど、いちおう新品だから我慢して」

 苦笑いを浮かべるアツくんにコクン頷くと、私はソファーに座ってノートパソコンを開いていた彼の隣に腰掛けた。

 パソコンの画面には英語で書かれた資料が表示されていて。それを読んでいたらしいアツくんは、縁の黒いメガネをかけている。

 アツくんのメガネ姿を見るのは初めてで、新鮮だ。もともと整った顔立ちをしたアツくんによく似合っている。

 真剣な顔付きでパソコンの文献を読んでいるアツくんの横顔を眺めていると、彼が私のほうを向いて「ん?」と首を傾げた。

「あ、えーっと……。アツくんていつからメガネかけてたのかなって思って」

 見惚れていたことがバレないように慌てて誤魔化すと、アツくんがメガネのフレームに触れながら「あー、これ?」と笑った。

「大学入ったくらいからかな。普段の生活にはそこまで支障ないんだけど、文献読むときとか仕事のときはたまにかけてる」

「そうなんだ……」

 似合ってるねって褒め言葉が口から出かけたけれど、それを言うとメガネをかけたアツくんの横顔に見惚れていたことがバレかねないのでやめておく。
 
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