もう一度、重なる手
私はソファーに両足の踵を揃えてのせて体育座りになると、ふたたびパソコンの文献に視線を戻したアツくんの隣で、ドキドキしながら自分の膝を抱きしめた。
まさか、今夜、アツくんの家に泊めてもらえることになるなんて……。
そこかしこにアツくんの気配が散らばっている部屋で、私は胸の高鳴りを抑えられずにいた。
「おいで」と私の手をとったアツくんが連れて来てくれたのは、私たちが働くビルから電車で二十分くらいの場所にあるマンションだった。
駅から近く、セキュリティー面の整ったマンションは、外観も内装も綺麗で、広々としている。
アツくんのひとり暮らしのマンションに泊めてもらえることになったのは、私が翔吾くんからの着信に不自然なくらいに怯えていたからだった。
アツくんは何も言わないけれど、私が翔吾くんに暴力を振るわれたことや、私が自分の家に帰りたくないことに薄々勘付いているのだろう。
部屋に着くと、私のためにサッとチャーハンとスープを作ってくれて。お風呂を沸かして、寝巻き用の新品の服まで貸してくれた。
まさに、至れり尽くせりだ。
翔吾くんからの着信やラインに怯えなくて済むように、スマホはアツくんが電源を切ったままにしておいてくれている。
ここにいれば、私が怯えることは何もない。アツくんが守ってくれているから。