もう一度、重なる手
8.決別

 翌朝。パンの焼ける匂いで目が覚めた。

 見慣れないロフトのベッドで身体を起こしてしばらくぼんやりしていると「フミー、そろそろ起きろよ」と下のほうからアツくんの声がする。

 まだ夢の中にいるのかと思っていたら、アツくんが「フミー」と呼びながらロフトの階段を上がってきて。ようやくちゃんと目が覚めた。


「おはよう、フミ」

 梯子段から顔を出して笑いかけてくるアツくんに、心臓がドクンと鳴る。

 アツくんの「おはよう」で目覚めるのは、十四年ぶりだ。まさか、こんな日がまた来るなんて。

 ぼんやりとアツくんの顔を見ていると、彼が怪訝に眉を寄せる。

「俺の顔に何かついてる? それより、早く起きてきなよ。ホットサンドが冷めちゃう」

「ホットサンド?」

 だから、目覚めた瞬間に香ばしい匂いがしてきたのか。

「普段はトースト焼くだけだけど、今朝はフミが来てるから特別。クロックムッシュにしたから、冷めないうちに食べちゃって」

「うん、食べる」

 朝からアツくんの作ったごはんが食べられるなんて嬉しすぎる。

 飛び起きて、アツくんのあとからロフトの階段を降りると、顔を洗って食卓につく。

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