もう一度、重なる手

◇◇◇

 普段よりも五分ほど遅れて職場に着くと、デスクに座るなり、由紀恵さんが「史ちゃん」と顔を寄せてきた。

「私の見間違いだったら悪いんだけど、今朝、背の高いイケメンと一緒に電車に乗ってなかった? 相手は小田くんじゃないよね……?」

 由紀恵さんがそう言いながら、昨日と同じ、私の長袖の白のブラウスを疑わしげにチラリと見てくる。

 由紀恵さんは、私が昨日家に帰ってないと気付いているんだろう。

 最近の翔吾くんとの関係を、彼のことを知っている由紀恵さんにはあまり話したくないけれど……。今朝アツくんといっしょにいたことを、変に勘繰られても困る。

 少し迷ってから、私は由紀恵さんに、昼休みに聞いてほしいことがあると伝えて、業務を開始した。

 午前中の仕事のルーティンをいつものようにこなしたあと、部署の他の同僚に許可をもらって、私と由紀恵さんはふたりで同じ時間帯に昼休みをとらせてもらった。

 お昼はビルの休憩スペースで食べたいと言うと、由紀恵さんは最初不思議そうにしていたけれど……。

 私がここ数ヶ月の翔吾くんとの関係や別れ話をして殴られたこと、この前は殴られた痣が目立つので仕事を休んだことをぽつぽつ話していくと、由紀恵さんの表情が徐々に険しくなっていった。
< 147 / 212 >

この作品をシェア

pagetop