もう一度、重なる手

「どうしてそうなるまで我慢してたの。史ちゃんがしんどい思いをしてるってもっと早くわかってれば、力になれることもあったかもしれないのに……」

 私の話を聞いた由紀恵さんは、悔しげにそう言ってくれて。それだけで、心が少し軽くなった。

 これまで誰にも言えずに翔吾くんからの束縛や監視に耐えていたけれど、アツくんや由紀恵さんに打ち明けて初めて、私と翔吾くんの関係が歪だったことに気付く。

 翔吾くんから逃げられないと怯えていたけれど、私自身も彼の監視下で少しおかしくなっていたのかもしれない。

「帰りは、史ちゃんのお義兄さんの仕事が終わるまで私が付き合うよ。下手にオフィスの外に出ると小田くんに見つかるかもしれないから、仕事が終わったらここの休憩スペースで待っていよう。ここなら、ビルのテナントの従業員しか入れないし」

 話の流れでアツくんのことも話すと、由紀恵さんがそんなふうに言ってくれた。

 由紀恵さんの存在が心強くて、つい泣きそうになってしまう。

 昼休みが終わって仕事に戻ってからは、もしかしたら、午後から翔吾くんが仕事でうちの会社を訪ねてくる可能性もあるのでは……、と心配だったけど。それは杞憂に終わった。

 順調に仕事を終えた私と由紀恵さんは、十八時過ぎに会社を出てビルの休憩スペースに向かった。
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