もう一度、重なる手
仕事が終われば、また翔吾くんからの電話がくるんじゃないかと構えていたけど……。
由紀恵さんと缶コーヒー飲みながらアツくんを待つ間、翔吾くんからの連絡は一度もなかった。
昨夜の履歴の数はなんだったのかと思うほど、不気味なくらいにスマホが鳴らない。
「史ちゃんのこと、諦めてくれたのかな。だったら安心だよね」
由紀恵さんはそう言ったけど、私の胸はそわそわして不安だった。
あれほどの執着をみせてきた翔吾くんが、一晩音信不通になったくらいで諦めてくれるだろうか。
連絡がないのは、彼が何かを企んでいるからなのでは……。
考えれば考えるほど、悪い予感ばかりがして落ち着かない。
そんな私の元に仕事を終えたアツくんが来てくれたのは、夜の八時頃だった。
「お待たせ、フミ」
休憩スペースまで迎えに来てくれたアツくんを見た由紀恵さんは、「近くで見たらさらにイケメンだ」と私の耳元ではしゃいだ声を出す。
「史花の同僚の方ですよね。この度はお世話になり、ありがとうございます」
「いえいえ、心配ですよね。今日、史ちゃんから話を聞いてビックリしました。できることがあれば、いつでも力になりますので」
アツくんににこやかに対応した由紀恵さんは「年上だし、頼りになりそうなお義兄さんだね」と、私にこそっと耳打ちしてきた。
どうやら由紀恵さんの中で、アツくんはかなりの好印象だったらしい。
由紀恵さんは笑顔で私とアツくんに会釈をすると「気をつけてね」と、先に帰って行った。