もう一度、重なる手

 私も、翔吾くんが完全に諦めたとは思ってない。でも……。

「待ち伏せなんて……。そこまでストーカーじみたことするかな……」

「どうだろう。深夜までしつこくラインや電話をかけてきたり、持ってる合鍵で勝手にフミの家に入ってきてる時点で、ストーカー行為一歩手前だと思うけど。今日、ほんとうに自分の家に帰って大丈夫?」

 念を押すように確認されて、判断に迷った。

 アツくんの言うとおり、翔吾くんが私の家の合鍵を持っている時点で、自宅に帰るのは危ないのかもしれない。

 でも、着替えを含めた生活必需品は全て家にあるのだから、このまま一生帰らないわけにもいかない。

「大丈夫だよ。帰ったら、すぐにチェーンをかけておくようにする」

 迷った末に家に帰る判断を下すと、アツくんが「わかった」と心配そうに息を吐いた。

「とにかく、ビルの外に出たら俺のそばから離れないでね」

 アツくんに何度も念を押されて、深く頷く。

 私はアツくんの左隣にぴったりとくっつくと、周囲を警戒しながらビルの外に出た。

 出入り口の前で立ち止まってアツくんと一緒に周囲を見回したが、近くに翔吾くんの姿はない。

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