もう一度、重なる手
「大丈夫そう、だよね?」
アツくんと顔を見合わせて確認すると、地下鉄の駅のほうに足を向ける。そのとき。
「史花」
私たちのオフィスが入っているビルから少し離れた街路樹の陰から、翔吾くんがぬっと姿を現した。
いつからいたのかわからないが、スーツ姿で仕事のカバンを片手に持った翔吾くんは、会社帰りに私を待っていたらしい。
「史花が電話にも出ないしラインも返してくれないから、迎えに来たよ」
口角をあげて、翔吾くんがニヤッと笑う。
まさか、彼がこんなストーカーじみたことをするなんて……。信じられない気持ちでいっぱいだった。
それでも、不気味に笑う翔吾くんの顔から目を逸らせずにいると、彼が一歩、二歩と近付いてくる。
アツくんが庇うように私を背中に隠してくれたけど、翔吾くんにはアツくんの姿が目に入っていないらしい。翔吾くんの双眸は、アツくんの陰に隠れる私だけをジッと見ていた。
「昨日はどこにいたんだよ。なんで家に帰ってこなかったの? 俺、ずっと待ってたんだけど」
翔吾くんの言葉に、サーッと全身から血の気がひいた。
昨夜、私がアツくんの家でゆったりとお風呂に入って温かなベッドで眠っているあいだに、翔吾くんは合鍵でうちに入って待っていたのだ。
もし昨日、私が帰宅していたらどうなっていたのだろう。
翔吾くんは「ちゃんと話したい」と言うけれど、ちゃんとした別れ話ができただろうか。きっと、うまくいかなかったんじゃないかと思う。