もう一度、重なる手

「もしかして、昨日はそいつと一緒にいたのか? 今日もふたりでコソコソして、そいつの家に帰るつもりだったんだろ」

 私に向かってそう言ったあと、翔吾くんがアツくんを鋭い目付きで睨む。

「あんた、史花に手ぇ出してないだろうな。昔一緒に住んでた兄だか家族だか知らないけど、俺と史花の間に割って入ってくんなよ」

 翔吾くんが、アツくんを押し退けて私に手を伸ばしてくる。その瞬間、殴られたときの恐怖が蘇ってきて身体が硬直した。

 助けて――。

 声にならない悲鳴をあげながら目を閉じる。

 けれど、伸ばされた手は私を捕まえることはなく、アツくんに制された。

 一見、アツくんのほうが翔吾くんよりも華奢に見えるのに。アツくんは、余裕げな涼しい顔で翔吾くんの腕を押さえている。

「離せ……!」

 顔を歪めた翔吾くんが歯を噛み締めて唸るのを、アツくんは冷静に見下ろしていた。

「小田くん、君がフミに何をしたかは聞いてるよ。フミに暴力を振るったんだよね?」

 アツくんの言葉に、翔吾くんがピクリと頬を引き攣らせる。

「だから……、そのことはずっと謝ってる……」

「でも、フミは許せてないよ。君がしたことに傷付いて、今も怯えてる」

「わかってるよ。だから、ちゃんと話を……」

 翔吾くんの声のトーンが、少しずつ下がっていく。

 さっきまでアツくんを鋭く睨みつけていた彼の視線は、私への暴力を指摘された途端に気まずそうに彷徨い始めた。

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