もう一度、重なる手
「史花……」
顔をあげると、翔吾くんがいつになく甘い猫撫で声で私を呼ぶ。
付き合い始めた頃は、耳に心地よかった翔吾くんの声。だけど今は、その声にときめくどころか、耳が完全に拒絶していた。
「史花、この前はほんとうにごめん。もう絶対にあんなことしない。これからはもっと史花のことを大事にする。だからこっちに来て。俺ともう一度ちゃんと――」
甘く優しい声で謝って、私を説得しようとする翔吾くん。だけど、その言葉がどれひとつとして私の心に届かない。
数日会わないあいだに翔吾くんの顔は少しやつれていて、目の下に隈ができている。
ここ何日か、私のことで思い悩んだのだろうか。その姿を見ても、同情の気持ちすら湧いてこない。
私は目の前で懸命に話す恋人であるはずの人のことを、冷めた気持ちで見つめた。
翔吾くんがどれだけ謝ってくれたとしても、好意の言葉を伝えてくれたとしても、私の前には透明な決して打ち破れない壁があって。どうしても、以前と同じように彼を受け入れることができない。
「ごめんね、翔吾くん。別れてほしい……」
翔吾くんの話を遮って震える声で伝えると、彼が大きく目を見開いて唇を戦慄かせた。