もう一度、重なる手
9.恋情
翔吾くんに鍵を返してもらったあとも、アツくんはまだ少し私のことを心配していて。
もし今後も翔吾くんが私に不用意に付き纏うことがあれば、「警察や知り合いの弁護士さんへの相談も考える」と、私の代わりに彼に釘を刺していた。
翔吾くんとはちゃんと話もできたし、合鍵も返してもらえたから、もう大丈夫だと思うけど……。
アツくんは「念のため」と、私を自宅マンションまで送ってくれた。
「戸締りはしっかりね。念のため、チェーンもかけときなよ」
マンションのエントランスの前に着くと、アツくんが私に忠告をしてきた。
そのふたつを守るようにしつこく念を押してから、アツくんが「じゃあ」と立ち去ろうとする。
「アツくん!」
とっさに呼び止めてしまったのは、わざわざ自分の家とは逆方向の私のマンションまで送ってくれたアツくんが、あっさり帰っていこうとするのが淋しかったから。
「ん? どうかした?」
けれど、いざアツくんが振り向かれると、何を言えばわからなくなって言葉が喉につっかえた。