もう一度、重なる手

「え、っと、別に。特に用事があるわけじゃないんだけど……」

 アツくんが帰ってしまうのが淋しい。その気持ちを正直に伝えたら、アツくんは困るだろうか。

「まだ何か心配なことでもあった?」

「そうじゃないけど……」

 うつむいて口ごもる私に、アツくんが心配そうな眼差しを向けてくる。 

「気になることがあるなら、遠慮せずに言っていいんだよ」

 そばに戻ってきたアツくんが、わずかに首を傾ける。

 心配してくれているアツくんにこんなことを言うのは恥ずかしいような気もしたけど、私は思いきってアツくんのシャツの袖をつかまえた。

「あの、もしよかったらなんだけど……」

「うん?」

「あ、上がってコーヒーでも飲んで行かないかな、って……」

 たったそれだけのことを言うだけで、心拍数が上がって顔が強張る。やたらと深刻そうな私の顔を見て、アツくんが意外そうに瞬きをした。
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