もう一度、重なる手
10.幸福
「ただいま、フミ」
仕事が休みの土曜日の夜。キッチンに立って夕飯の用意をしていると、仕事が帰宅したアツくんが背中からぎゅっと抱きしめてきた。
「おかえりなさい」
笑顔で振り向くと、それを待ち構えていたかのように、アツくんにキスされた。
「ちょ……、今はだめ」
サラダ用にきゅうりを切ろうとしていた私は、ドキドキしながらアツくんの胸を押し退ける。
「じゃあ、あとでね」
悪戯っぽく目を細めたアツくんが私の額に軽くキスをして離れる。
「着替えてくるね」
「うん……」
ジャケットを脱ぎながらクローゼットのほうに向かうアツくんの背中を、私はしばらく火照った顔で見つめた。
翔吾くんとの交際にケジメをつけて、アツくんに想いを伝えた夜からそろそろ一ヶ月。
私はアツくんの恋人になり、仕事が休みの週末はほぼ毎週と言っていいほど彼のワンルームのマンションに入り浸っている。