もう一度、重なる手

「今日は夕飯のあとにデザートもあるよ」

「そうなんだ。何作ってくれたの?」

「プリン。ちゃんとカラメルソースも作ったの。朝に作ったから、そろそろうまく固まってると思う」

「楽しみだな」

 アツくんがビーフシチューを口に運びながら、嬉しそうに目を細めた。

「そういえば、小学生の頃にもフミが俺にお菓子作ってくれたことあったよね」

「そんなのあった?」

 考えても記憶になくて、首を傾げる。

「あった、あった。あれ、バレンタインデーだったのかな? こんなちっさいハート型のチョコくれたよね」

「バレンタインデー……」

 そういえば、母と二宮さんの離婚が決まる半年ほど前のバレンタインデーで、私はアツくんにチョコをあげた。それも、溶かして固めるだけのものすごく簡単なもの。

 あんなの、手作りお菓子と言っていいかどうかもわからないくらいの代物だったはずなのに……。

 ほんとうにアツくんは、昔の私のことをよく覚えている。

「チョコを包んでたラッピングも、折り紙とか使った手作り感満載のやつでさ。でも、すごく嬉しかったよ。俺、フミが来る前はずっとひとりっ子だったから、妹がいたらこんなことしてもらえるんだな、可愛すぎる、って思って。学校で友達にすげー自慢した」

「ウソ。私のチョコなんて自慢しなくても、高校生のときのアツくんなんて、絶対に女の子からチョコたくさんもらってたでしょ」

「たくさんってことはないけど……」

 アツくんが笑いながらなんとなく言葉を濁す。

 はっきりと否定はしないけど、学生自体のアツくんはきっとモテていただろう。

 アツくんに初めて会ったときに小学生だった私も、かっこいいお兄ちゃんができたことが嬉しくてかなりテンションが上がったんだから。
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