もう一度、重なる手
複雑な気持ちでビーフシチューを啜っていると、アツくんが私に優しいまなざしを向ける。
「でも、フミがくれたあのときのチョコは俺にとってはやっぱりトクベツだったよ」
バレンタインデーのチョコをあげたとき、私はまだアツくんへの恋心は自覚していなかった。
アツくんだって、あのときは私のことを《妹》だとしか思っていなかっただろう。
それでも、あのときからお互いにお互いのことがトクベツだと思っていたなら嬉しい。あのときから、私はアツくんのことが好きだったから。
ふわふわとした幸せな気持ちで夕食を過ごしたあと、アツくんとふたりで協力して片付けを済ませる。
シンクの前にふたりで並んで話しながら作業していると、洗い物はあっという間に終わってしまう。
アツくんと一緒にいると、そういう時間も楽しかった。
夕食の片付けが終わると、冷蔵庫で冷やしてあるプリンを食べるために、アツくんがコーヒーを淹れてくれる。
「これ、すごくなめらかでお店のプリンみたい」
手作りのプリンは、食べてみたら思ったよりも甘味が足りなかった。それでもアツくんがにこにこ笑って褒めてくれるから、私はまた嬉しくなった。