もう一度、重なる手
「侑弘からだいたいの話は聞いてるけど、ふたりが一緒に暮らすことに僕は何の異論もないよ」
私たちの同棲の話は、アツくんから二宮さんのほうに既に話がいっているらしい。
今日、こんなふうに畏まった場所で会うことになった名目は、二宮さんに将来を見据えた同棲の許可をもらうためだったのだけれど。カフェの席に着いて話をする前にあっさりと許可が下りてしまい、私は少し拍子抜けした。
「ありがとうございます」
丁寧に頭を下げると、二宮さんがハハッと気さくに笑う。
「今さらそんなにかしこまらないで。史ちゃんはもともと僕の娘みたいなものなんだから。昔のとおり、気を遣わなくてもいいし、敬語もいらないよ」
「はい」
顔をあげると、二宮さんが優しいまなざしを向けてくれる。
『娘みたいなもの』
そんな二宮さんの言葉に、胸が温かくなった。
小学生のとき、母が二宮さんと再会したときも、彼は私のことを優しいまなざしで見つめて同じようなことを言ってくれた。
『これからは僕が君のお父さんだから。なにか困ったことがあったら、いつでも頼ってね』
小さな頃に亡くなった実の父親の記憶があまりない私には、二宮さんの言葉がとても頼もしく耳に響いた。この人がこれから自分のお父さんになるんだと思ったら嬉しかった。
母と離婚してからは一度も会うことはなかったけれど、私の中での《お父さん》という人のイメージは、実の父よりも二宮さんの印象が強い。
だから、十四年越しにこうして受け入れてもらえることがほんとうに嬉しい。