もう一度、重なる手
「フミが一緒にいることを望んでくれる限り、俺は彼女とともにいるつもりです」
「それならよかった。侑弘くんが史花のそばにいてくれるなら、私も安心だわ。これからもよろしくお願いします」
母はアツくんの返答に満足そうな笑みを浮かべたまま、テーブルに軽く両手をついて、丁寧に頭を下げた。
「いえ、そんな……」
突然の母の行動に驚いた。
子どもの頃から私にはほとんど関心のなかった母。そんな母が、まさか私の将来のために誰かに頭を下げるなんて。
自分勝手で奔放な母にも、ちゃんと親としての心があったんだ……。
ぽかんと口を開く私の前で、アツくんも少し意外そうな顔をしていた。それから、二宮さんも。
しばらくして、テーブルに手をついていた母がゆっくりと顔をあげる。それから呆然としている私たち三人の顔を見回すと、母がにっこりと微笑んだ。
「それで、住む場所はもうどこにするか検討をたててるの?」
「いえ、それはまだこれから……」
母に訊ねられたアツくんが、小さく首を横に振る。その瞳には、まだ母に対する戸惑いの色が残っている。
もちろん、私も、母がアツくんに頭を下げたことに対する驚きの余韻が抜けていない。