もう一度、重なる手
今、母には恋人がいない。
母がアツくんに頭を下げたのは、私の将来を思ってではなく、今後の自分の生活を私たちに面倒見てもらおうという保身のためだったらしい。
『またみんなで昔みたいに暮らせたら』なんて、いったいどの口が言うのだ。
楽しかった二宮さんの家での暮らしを壊して、私からアツくんを奪ったのは母なのに。冗談じゃない。
「ちょっと、お母さん……」
「でも、ふたりがこんなふうに再会するなら、手紙のやりとりを無理にやめさせる必要もなかったわね」
「え……?」
母の言葉に、まさか……と頬が引き攣る。
「お母さんもしかして、離婚したあとにアツくんから届いてた手紙――」
「ポストに届いてた分は処分してたわよ。史花はまだ子どもだったし、別れた夫の息子から余計なこと吹き込まれても困ると思って。史花、やたらと敦弘くんになついてたでしょう」
母が、悪びれのない顔でそんなことを言う。
膝の上に握りしめていた手が震えた。どうしようもない怒りで。
アツくんからの手紙が届かなくなった原因が、母だったなんて……。