もう一度、重なる手

 昔から、身勝手な母に思うところはたくさんあった。子どもの頃から振り回されてばかりだった。

 それでも、母は私のたった一人の肉親だったから、なるべく機嫌を損ねないように我慢してきた。

 だけど、今回ばかりは黙っていられない。

 テーブルを叩いて立ち上がろうとすると、同じタイミングで二宮さんがバンッと思いきりテーブルを叩いた。

「梨花さん、こんなときくらい、母親として史ちゃんの幸せを後押ししてあげられないの?」

 私たちはもちろん、周囲のテーブルに座っていた周囲のお客さんたちまでもが、驚いてこちらに視線を向ける。

 一瞬、シンと静まり返ったカフェ内に、二宮さんの声が厳かに響く。その声は、いつも笑顔で優しい二宮さんの姿からは想像できないくらいに低かった。

 二宮さんが、ぽかんと口を開いて目を瞠る母を険しい表情で睨む。

 鋭い目付きをで母を見る二宮さんは、たぶん、私なんかよりもずっと怒っている。

「僕があのとき、幼い史ちゃんに選択を委ねたことをどれだけ後悔したと思ってる?」

 二宮さんの声が、静かに響く。

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