もう一度、重なる手
1.再会

 ランチから帰ってくると、杖をついたお婆さんがエレベーターホールで立ち止まって、きょろきょろとしていた。

 誰か話しかけられそうな人を探している様子だが、スーツ姿の会社員たちは、お婆さんに目もくれず、忙しそうにスタスタと歩き過ぎて行く。

「どうかされました?」

 近付いて行って声をかけると、お婆さんがわたしを見上げて、ほっとしたようにクシャリと頬を綻ばせた。

「あー、あのね。私、このビルの五階にある整形外科に行きたいのよ。でもエレベーターに乗ったら、五階で止まるボタンがなくて、十五階まで行っちゃったの。慌てて降りてきたんだけど、五階へいくエレベーターがどれなのかわからなくて。どうしたら五階に行けるのかしらね。この前娘に付いてきてもらったときは、ここのエレベーターから五階に行けたはずなんだけど……」

 そう言って、お婆さんが細い人差し指をエレベーターのほうに向ける。

 どうやら、お婆さんの目的地はこのビルの五階にある医療モールらしい。

 私が働く大洋損保の本社も入っているこのオフィスビルは三十階建て。低層階には飲食店や医療モール、高層階には企業のオフィスや法律事務所などさまざまなテナントが入っている。

 オフィス街なので、ビルに出入りするのはスーツ姿のビジネスマンが多いけど、たまに医療モールを訪れるご高齢の方を見かける。

 私自身はお世話になったことはないけれど、このビルには内科・整形外科・眼科・診療内科などのクリニックがあって。どのクリニックも評判の良い先生ばかりが集まっているらしいのだ。

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