もう一度、重なる手
「もし史ちゃんが僕の実の子どもだったら、絶対に君には譲らなかった。だけどあのとき、そこまでの権利が僕にはないと思ったんだ。でも、史ちゃんのことは君と別れたあともずっと気になって仕方なかったよ」
二宮さんの言う『あのとき』とは、母と離婚するときのことだろう。
私が母と二宮さんのどちらに着いて行くかという選択を迫られたとき。その結果として母を選んだとき。二宮さんがそんなふうに思ってくれていたとは知らなかった。
一緒に暮らした期間は短かったけれど、二宮さんはほんとうに、私のことを《娘》として大切に想ってくれていたのだろう。
もしかしたら、今隣にいる母よりも、たった数年間一緒に暮らしていた二宮さんのほうが私のことを想ってくれたのかもしれない。そう思うと、少し泣きそうになる。
「十四年前は君に託したけれど、侑弘と一緒に暮らすことになれば、史ちゃんは僕の娘も同然だ。梨花さんはもういい大人なんだから、ちゃんと自立して自分の足で歩きなさい。今後、史ちゃんに何か負担をかけるようなことがあったら、僕が父親として許さない」
二宮さんが、そうやって、きっぱりと母のことを切り捨てる。
「もし侑弘と史ちゃんがいつか結婚式を挙げることになったら……。そのときは、ちゃんと史ちゃんの母親として自覚をもって参加してほしい。行こう」
二宮さんがアツくんを促して席を立つ。
二宮さんの言葉に打ち負かされた母は、目を見開いたまま、ただただ呆然としていた。