もう一度、重なる手
宙を見つめて固まってしまった母と、伝票を持って去ろうとする二宮さん。
そんな二人に交互に視線を投げつつ戸惑っていると、二宮さんについて席を立ったアツくんが、私に手を差し伸べてきた。
「おいで、フミ」
アツくんが優しく目を細めて首を傾げる。
その姿をぼんやりと見上げながら、『あのとき』と似ていると思った。
十四年前の、重大な選択を迫られたあの夏の日。
ここはホテルのカフェの中なのに。手を差し伸べてくれるアツくんは、もう制服姿の高校生ではないのに。
頭がぼんやりとして、ジーッ、ジーッという蝉の声の幻聴が聞こえてくるような気がする。
『史花はお母さんと来る? それとも、二宮くんのところに残る?』
切羽詰まったような、悲しそうな母の声。
『おいで、フミ』
私を呼ぶ、少し掠れたアツくんの声。
どちらの手を取るべきか悩む私の耳に、ジーッ、ジーッと五月蝿く蝉の鳴き声が木霊し、思考を掻き乱す。
二宮さんのところで、アツくんと一緒にいたい。
でもそうしたら、お母さんは――?