もう一度、重なる手

「あの、アツくん……?」

 冷静さを欠いてなんだか余裕のなさそうなアツくんの背中に、気安く腕を回していいものかどうかわからない。

 アツくんの腕のなかで棒立ちで固まっていると、彼が私の肩口に額を押し付けてきた。

「お母さんがカフェに来てから、フミ、ずっと心許なさそうな顔してたね」

「そう、なのかな……」

「うん。お母さんの隣で困った顔をしてるフミを見てたら堪らなくて。早くあの場から連れ去って、一秒でも早く抱きしめたくて仕方なかった」

 カフェを出てからの余裕のなさは、そのせいだったのだろうか。

 アツくんの腕が、私の身体をまたぎゅーっときつく締め付けてきて。胸が、息が、苦しくなる。

「あのとき父さんが怒らなかったら、俺がフミのお母さんにキレてたと思う。父さんみたいに冷静にじゃなくて、もっとめちゃくちゃに」

「アツくん……」

 アツくんが私の肩に額を押し付けたまま、深いため息を吐く。

 アツくんはそう言うけれど、二宮さんが怒らなかったら、私だってきっとあの場で母にキレていた。

 冷静にじゃなくて、めちゃくちゃに。
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