もう一度、重なる手
私たちが立ち去ったあと、カフェにひとりで残された母はどうしただろう。
普段は温厚で優しい二宮さんが口にした厳しい言葉。
それを受け止めて、何か思うことはあっただろうか。
それとも、開き直ってこれからも変わらず奔放な生活を続けていくのだろうか。
私が母の味方をしなかったことを、どう思っているだろうか。
黙って考えていると、アツくんが私を抱きしめる腕の力を緩めて顔をあげる。
「フミは、お母さんの手をとらなかったことを後悔してる?」
アツくんが、少し不安そうな目をして訊ねてくる。それに対して、私は迷うことなく首を横に振った。
母のことを想うとほんの少しだけ胸が痛むような気がするけれど、アツくんの手をとったことに後悔はない。
アツくんの胸に頬をくっつけて、その背中に腕を回す。
甘えるように抱き着くと、アツくんが私の頭の後ろに手を置いて優しく撫でてくれた。
しばらくそうして私の髪を撫でたあと、アツくんが私の頬に手を置いて顔をあげさせる。