もう一度、重なる手
翔吾くんのことは好きだ。嫌いになったわけじゃない。
だけど、この頃はどうしてか、一緒にいると気詰まりする。
ひさしぶりにアツくんに会って気持ちが和んだあとだから、余計にそう感じるのかもしれない。
キッチンに立って、ベーコンと玉ねぎを薄く刻んでいると、翔吾くんがそばに寄ってきた。
隣に立って何か手伝うでもなく、私の作業をじっと見ている。近過ぎて作業しづらいと思ったけど、敢えて指摘はしなかった。
火にかけたフライパンに切った材料を入れて、醤油ベースの和風パスタソースを作る。
大鍋に水を入れて湯が沸くのを待っていると、それまで黙って私のすることを見ていた翔吾くんが口を開いた。
「史花」
名前を呼ばれて、何気なく振り向く。だけど翔吾くんと目が合った瞬間、振り向いた自分に後悔した。
翔吾くんが次に何を言おうとしているか。その言葉がすぐに想像できてしまったから。