もう一度、重なる手
子どもの頃は、アツくんに頭を撫でてもらうと純粋に嬉しくて仕方がなかった。それが、大人になった今はなんだか私を落ち着かない気分にさせる。
気持ちを落ち着かせるために、ミルクティーをそろそろとゆっくり啜っていると、しばらくしてアツくんが戻ってきた。
トレーに乗っているのは、大盛りのチキンカツカレーとサラダとアイスコーヒー。
「アツくん、結構ガッツリだね」
細身の体のどこに入るんだろうというくらいボリューム満点なお昼ごはんを見て目を瞬いていると、アツくんがスプーンに巻かれていた紙ナプキンを外しながら笑った。
「そう? 一人暮らしで、朝は適当だから。昼になるとすごく腹が減るんだよね」
そう言って、カレーにかぶりつくアツくんは、もう三十を超えているのに食べ盛りの学生みたいだ。
イケメンなくせに、気持ちの良いくらいの食べっぷりを見せるアツくんのことを眺めていると、視線に気付いた彼が手を止める。
「フミもひとくちいる?」
私が物欲しそうに見えたのか、アツくんがカレーを掬ったスプーンをこちらに向けて首を傾げた。
「う、ううん。いい、いい……!」
今にも「あーん」と私の口元にスプーンを持ってきそうな勢いのアツくんを、全力で止める。
いちおう、ここは会社の入っているオフィスビルの中のカフェだし。誰に見られるともわからない。
十四年ぶりに会ったにも関わらず、こんなことを自然とやってのけるアツくんにとって、私はきっと今も庇護の対象なのだ。
だけど私だってもう大人なんだし。アツくんに世話してもらわなくても大丈夫だってことを知ってもらわないと。