もう一度、重なる手

「本、忘れてるよ」

 アツくんとの話に夢中になって、テーブルの上に置いた文庫本のことをすっかり忘れていた。

 慌てて取りに戻ると、アツくんが「はい」と本を差し出してくる。

「ありがとう」
 
受け取ろうとすると、アツくんが本をつかむ手に力を入れた。

「アツくん?」

 アツくんの本を渡すことを拒むような態度に首を傾げると、彼が「フミ」と呼ぶ。

「昨日はこの本をフミに会うための口実にしようとしたけど、やっぱり訂正」

「え……?」

「口実なんていらないから、何かあったらいつでも相談して。俺は今も昔も、絶対にフミの味方だから」

 別れ際に急にそんなこと言い出すなんて、どうしたんだろう。
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