もう一度、重なる手
午後からの仕事も頑張ろう。心の中で自分で自分に気合いを入れていると、ポンッと電子音が鳴って目の前でエレベーターの扉が開く。そこから降りてきたのは、白衣を着た若い男性だった。
医療モールにあるどこかのクリニックの医師か医療関係者なのだろう。彼と入れ違いにエレベーターに乗り込もうとした、そのとき。
「フミ?」
急に後ろからグイッと腕を引っ張られて、名前を呼ばれた。
「やっぱり、フミだ」
振り向くと、彼がまた親し気に私の名前を呼んで、嬉しそうに目を細める。その笑い方と、奥二重の涼やかな目元に、どことなく見覚えがある。
見覚えがある、というより、なつかしい——? そんな感情が湧き上がってくるのを感じて目を眇めると、彼が首を傾げながら眉尻を下げた。
「忘れちゃっててもムリないか。父さん達が別れてから、もう十四年経つもんな。フミはまだ小学生だったし。俺もあのときより老けたし」
彼がハハッと笑ったとき、なつかしい感情に、ようやく私の記憶が追い付いた。
「もしかして、アツくん?」
「もしかしなくても、そうだよ。俺のこと、思い出してくれた?」
「思い出すもなにも……。私、忘れたことないよ。アツくんのこと」
なつかしい気持ちに胸をぎゅっと詰まらせながらそう言うと、アツくんが眉根を寄せて笑った。
「うそつけ。俺に引き留められた瞬間、ぽかんとした顔してたくせに」
アツくんが私の頭に手をのせて、ぐりぐりと撫でる。