もう一度、重なる手
クッションのそばに置いたカバンからスマホを取り出すと、五分ほど前に翔吾くんとアツくんからそれぞれラインが届いていた。
〈お母さん、大丈夫だった?〉
内容はどちらも、母の状態を気遣うものだ。
順番に返事をしようと、まずアツくんとのトーク画面を開く。
〈心配してくれてありがとう。お母さんは、思ったよりも軽症で〉
そこまで打ち込んだところで、私は文章を全部削除した。それから、ラインの画面を通話に切り替える。
疲れているせいか文字を打つのが急に面倒くさくなったのもあるし、なんとなく、アツくんの声が聞きたくなった。
電話をかけると、3コール鳴らさないうちにアツくんが出てくれた。
「もしもし、フミ?」
電話口から響いてくる声が、疲れた心をじんわりと癒やしてくれる。
ぼんやりと聞き入っていると「フミ? 大丈夫?」と、少し焦ったアツくんの声に心配された。
「ああ、うん。大丈夫。お母さんも大丈夫だったんだけど、なんかすごく疲れちゃって……」
私が病院に迎えに行ったときの母の反応や自宅に送って行ってからのことを、アツくんにぽつぽつ語る。
相槌を打ちながら静かに話を聞いてくれていたアツくんは、「相変わらずだね、フミのお母さん」と呆れたように笑った。