もう一度、重なる手
「ちょっとやめて。うそじゃないもん」
私を子ども扱いするアツくんの態度は、あの頃と変わらない。だけど、あの頃よりも少し大きくなったような気がするアツくんの掌に少しドキリとしてしまった。
アツくんはすれ違いざまに気付かなかった私が彼のことを忘れたと勘違いしたみたいだけど、私がアツくんのことを忘れたことなんて一度もない。
ただ、十六歳だった頃のアツくんの印象が私の記憶に鮮明に焼き付き過ぎていて。アツくんが大人になっていることを想像もしたことがなかっただけだ。
でも、ふつうに考えてみれば、アツくんがいつまでも十六歳の高校生の姿のままでいるはずがない。
だって、あの頃十歳だった私が今はもう二十四歳の大人になっているんだから。
大人になったアツくんのことを想像したことはなかったけれど、私よりも六つ上、三十歳になったアツくんは、誰が見ても誠実そうな好青年で。優しそうだし、見た目だってかっこいい。
「それにしても、びっくりしたな。十年以上も会わなかったのに、まさかこんなところでフミに会えるなんて」
「私のほうこそ、びっくりだよ」
「フミはこのビルの中で働いてるの?」
アツくんが、オフィスカジュアルな白のブラウスと黒のパンツに身を包んだ私の首からかかった社員証をチラリと見る。