もう一度、重なる手
「でも、なんだかんだでちゃんとお母さんのこと手伝ってあげてるフミは優しいよね」
「全然……、優しくはないよ。放っておくと、仕事中でもお構いなしに電話がかかってくるかもしれないし。そうなったら面倒くさいから」
「そんなこと言うけど、フミはお母さんのことを完全には見放せないんだよ」
アツくんが、電話口でふふっと笑う。
私が母を迎えに病院に行ったのも、おかずを作り置きしてきたのも、善意なんかじゃない。
だけど、アツくんと話していると母に対して感じていたモヤモヤや苛立ちが少しだけ払拭される気がした。
「それで、明日の昼休みだけど……。12時半に下のカフェでいいかな」
母の話に区切りがつくと、アツくんがそんなふうに話を切り出してきた。
「明日の昼休み……」
「もしかしてフミ、忘れてた? 本、貸してくれるんでしょう?」
「忘れてないよ。12時半で大丈夫」
今日は憂鬱なことばかりだったけど、明日アツくんに会えると思ったら元気が出てきた。
「午前の診察が伸びたら、少し遅れちゃうかもしれないけど……。13時までには行けると思うから、フミのほうが早かったら先に何か食べておいて」
「わかった。楽しみにしてるね」
「うん、俺も」
アツくんの言葉にドクンと心臓が音をたてる。そのとき、玄関のほうから物音がした。
「史花ー、帰ってんの?」
突然、翔吾くんの声が聞こえて焦る。帰ってきてから私がなんの連絡もしないままだったから、心配して来たのだろう。
アツくんに電話する前に、翔吾くんにもひとこと連絡を入れておくべきだった。