もう一度、重なる手
「史花ー」
翔吾くんが、リビングまでの廊下を歩いてくる音がする。
自分には何の連絡も入れずに他の人と電話をしていたと知れば、翔吾くんは確実に気を悪くするだろう。
「ごめん、ちょっと来客があって……。切るね」
「俺は大丈夫だけど。フミは大丈夫?」
翔吾くんに会話の内容を聞かれたくなくて声のトーンを下げると、アツくんが心配そうに訊いてきた。
「大丈夫だよ」
「そう? じゃあ、また明日ね」
「うん。また、ね」
言葉のチョイスに気を付けて話しながら、アツくんとの通話を切る。ちょうどそのタイミングで、翔吾くんがリビングに入ってきた。
「なんだ、やっぱり史花帰ってるじゃん」
慌てて耳からスマホをおろす私を見て、翔吾くんが怪訝そうに眉を顰める。
「ああ、うん。十五分くらい前に」
床に置きっぱなしのカバンに視線を向けながら薄く笑うと、翔吾くんが少し不機嫌そうな声で「ふーん」と頷いた。