もう一度、重なる手
「それで、お母さんは大丈夫だった?」
「うん。転倒して右腕にヒビが入ったみたいなんだけど、それ以外の外傷はなくて思っていたより元気だった」
「そう。よかったね」
「ただ、右腕を全体的にギブスで固定されてるから数週間手が不自由みたいで。ケガが治るまでは、週末に家のことを手伝いに来てほしいって言われてる」
「そうなんだ」
「うん。あの、翔吾くん、今日はごめんね。前からの約束だったのに、ドタキャンしちゃって……」
「それは仕方ないよ。うちの親も史花のお母さんのこと心配してた。挨拶に来るのは、お母さんのことが落ち着いてからでいいって」
約束を急にキャンセルしたにも関わらず、翔吾くんや彼のご両親が、思った以上に理解を示してくれたことにほっとする。
だけど私が安堵のため息を吐きかけた瞬間、翔吾くんがややつり気味の目を鋭く光らせた。
「それよりさ、史花。さっき、誰かと話してた?」
「え?」
「うちに挨拶に行く約束が延期になったことは構わないんだけど、出前の寿司はキャンセルできなかったみたいなんだ。持って帰って、史花が食べられそうなら状況なら食べろって母親に託されたから、ここに向かう途中電話をかけたんだけど。話し中で繋がらなかったから」
そう話す翔吾くんの口元には笑みが浮かんでいるけれど、私を見据える彼の目は少しも笑っていない。その目が怖くて、スマホを持ったままの手が冷えた。