もう一度、重なる手
「でも、ほら。今日の目的は、本を渡すことだから」
「そうなの? フミは案外冷たいなあ。俺は楽しみにしてたのに。ひさしぶりにフミと一緒にお昼食べるの」
トレーに置いてあるフォークに手を伸ばしながら、アツくんがにこにこと笑いかけてくる。
アツくんから注がれる優しい眼差しをどう受け止めていいのかわからなくて、私は顔を赤くして目を伏せた。
「とりあえず、はい、これ」
持ってきた文庫本をカバンから取り出してテーブルの上に置くと、アツくんの手がうつむく私の頭をふわりと撫でる。
「ありがとう」
上目遣いに見た私に優しく微笑みかけてくるアツくんは、未だに私を子ども扱いしている。それはわかっているのに、アツくんに触れられて、私の心臓はドクドクと暴れた。
アツくんは、私の兄も同然なのに。アツくんに会う度に、私は彼のことを大人の男性として意識してしまう。
アツくんは私のことを妹としか思っていないはずだし、私には翔吾くんという彼氏がいるのに。
でも、心の中でこっそりとときめくだけなら……。
アツくんの手が離れると、私は髪の乱れを治すふりをして、彼に触れられたところをそっと撫でた。