もう一度、重なる手
「うん。このビルの二十階にある大洋損保で事務の仕事をしてる」
「そうなんだ。いつから?」
「新卒で入って、今年で二年目だよ」
「へえ、もう二年も同じビルの中で働いてたんだね。まったく気付かなかった」
「このビル、高層階と低層階でエレベーターが分かれてるもんね。今日はたまたま、迷ってたお婆さんをこの階の医療モールに送ってきたけど、普段は私、こっちのエレベーターはほとんど使わない」
「そうか。俺も、高層階用のエレベーターはほとんど使わないもんな」
アツくんが、笑って頷く。そんな彼の首にも、私がかけているものと似たようなネームプレートがかかっている。
「アツくんは? ここの医療モールの中のクリニックのお医者さん?」
アツくんのお父さんは、内科のクリニックの開業医だった。偏差値の高い進学校に入学したアツくんが、将来的にお父さんの病院を継ぐために医学部を目指していたことは、私も知っている。
「そうだよ。大学病院の医局から派遣されて、二年前からここの内科クリニックに勤めてる」
「そうだったんだね」
私が頷くと、そこでなんとなく、アツくんとの会話が途切れた。
お互いに仕事もあるし、おしゃべりもここまでかな。