もう一度、重なる手
「アツくん……?」
伏せていた瞼をあげると、アツくんが私の手をぎゅっと握り返してくれる。
「心配しなくても大丈夫だよ。フミは優しくてちょっとお人好しなところがあるから、お母さんみたいには器用に立ち回れない。フミは、お母さんと同じにはならないよ」
アツくんの優しい声が私の鼓膜で響く。
何の根拠も保証もないのに、耳触りの良いアツくんのテノールで「大丈夫」だと言われたら、ほんとうに大丈夫な気がしてくる。
昔からアツくんの声にはいつも不思議な力があって、優しい声で慰められると、沈んでいた心がすーっと軽くなるのだ。
今もアツくんのおかげで、私の心はずいぶんと楽になっている。
今の私だったら、翔吾くんのご両親と会うことや彼との結婚を前向きに考えていけるかもしれない。
「ありがとう、アツくん」
「どういたしまして。あ、もし彼との結婚が本格的に進むことになったら、ちゃんと俺にも紹介してね」
アツくんが悪戯っぽく笑いながら「兄として」と付け加える。
兄として……、か。
アツくんとしてはあたりまえのことなのだろうけど、その言葉が少しだけ、私を複雑な気持ちにさせた。