もう一度、重なる手
「フミは週末にお母さんのところにも行かなきゃ行けないだろうし。予定はできるだけフミたちに合わせるから、日にちを決めたら連絡してよ」
「……、うん。彼にも予定を確認してみる」
「いやー、でも、今日の昼にいつか彼氏を紹介してって話をしたけど、それがこんなに早く現実になるなんて思わなかったなあ」
まさか、その彼氏に通話を聞かれているとは思っていないアツくんは、そのまま私に話を続けてきた。
「嬉しいんだけど、ちょっと淋しい気持ちもあるっていうか……。娘を嫁に出す気分」
「なにそれ……」
受話口でふふっと笑うアツくんの息遣いが、右耳の鼓膜をくすぐる。
この電話が翔吾くんに聞かれていなければ、もっとリラックスしてアツくんといろんな話ができるのにな。
残念に思っていると、翔吾くんが急にスマホを持っていないほうの私の手をぎゅっとつかんできた。
目線をあげると、不機嫌そうに私を睨む翔吾くんの唇が「まだ?」と静かに動く。
自分の前でアツくんに電話をかけろと言ったくせに。通話が長ければ、それはそれで不満らしい。
仕方なく、私はまだ会話を続けようとしているアツくんの言葉を遮った。
「ごめん、アツくん。明日早いから、今日はそろそろ寝る準備をしようかな」
「ああ、ごめん。そうだよね。じゃあ、また連絡待ってる。おやすみ、フミ」
アツくんの耳心地の良いテノールに、胸がきゅっとなる。
「おやすみなさい」
少し名残惜しい気持ちで電話を切ると、その瞬間に翔吾くんが私を抱きしめてきた。